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登記手続き 2026.08.09

社長の住所非表示制度|メリット・デメリットと申請手続をプロが解説

【司法書士監修】社長の住所非表示措置(代表取締役等住所非表示措置)のメリット・デメリットを率直に解説。融資や不動産取引、相続への実務影響から、必要書類(実在性確認等)、引っ越し時のルールまで網羅。

「プライバシーを守るために登記簿の住所を非表示にしたい」「不要な営業や安全上のリスクを防ぎたい」と考え、代表取締役等の住所を登記簿で非表示にすることを検討する経営者が増えています。

この「代表取締役等住所非表示措置」は、個人情報の保護やセキュリティ向上に極めて有効な制度である一方、銀行融資や不動産取引の場面などで一定の不都合(必要書類の増加や審査の遅れ等)が生じるという側面も持ち合わせています。

この記事では、司法書士でありプロパティマネージャーとしても多くの不動産・法務に関わってきた立場から、令和6年10月1日に施行された「代表取締役等住所非表示措置」のメリットとデメリットを比較し、手続きの具体的な要件や、状況別の留意点を分かりやすく解説します。

この記事の執筆者

雁部 陽介(かりべ ようすけ)  
あつたの杜事務所/司法書士・土地家屋調査士・不動産コンサルタント

大手司法書士法人での実務経験を経て、大手不動産マネジメント会社にてオフィスビル・大型物流施設のプロパティマネジメント業務に従事。表示に関する登記と権利に関する登記の双方を一つの窓口で完結できる体制を強みとし、法務手続にとどまらない不動産活用の視点から相続・登記のご相談に対応しています。

保有資格:司法書士/土地家屋調査士/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士 など

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目次

  1. 代表取締役等住所非表示措置とは?制度の概要と利用急増の背景
  2. 率直に比較!住所非表示の3大メリットと実務上の3大デメリット
  3. 住所を非表示にするための「2つの必須要件」と必要書類
  4. 【状況別】引っ越しや役員変更時における住所非表示の継続・終了ルール
  5. 一問一答!代表取締役等住所非表示措置でよくある質問(FAQ)
  6. まとめ:社長の住所非表示のポイント整理

1. 代表取締役等住所非表示措置とは?制度の概要と利用急増の背景

代表取締役等住所非表示措置とは、株式会社の代表者(代表取締役、代表執行役、代表清算人)の住所の一部を、登記事項証明書や登記情報提供サービスにおいて市区町村までしか表示させないようにする制度です。

プライバシーの保護や安全の確保を目的として令和6年(2024年)10月1日より施行され、開始直後から多くの企業がこの制度を利用しています。

対象となる役員の範囲と非表示後の表示イメージ

この住所非表示措置を利用できるのは、「株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人」に限られます。合同会社等の代表社員や支配人、特例有限会社の取締役などは対象外です。

実際に措置が適用された場合、登記簿謄本等に表示される住所は「最小行政区画(市区町村まで。東京都は特別区まで、指定都市は区まで)」となります。

住所の表示イメージ(ビフォーアフター)

役職・氏名従来の記載(ビフォー)非表示措置適用後(アフター)
代表取締役 A太郎名古屋市熱田区神宮一丁目〇番〇号名古屋市熱田区
代表取締役 B太郎名古屋市中区金山二丁目〇番〇号名古屋市中区

このように、具体的な番地やマンション名・部屋番号などの住居情報は登記簿からマスキングされ、一般には非表示となります。

【最新統計】運用開始から現在までの実施件数

法務省の発表によると、令和6年10月の運用開始から令和8年7月までの累計実施件数は24,960件に達しており、多くの経営者が関心を寄せています。その内訳は以下の通りです。

  • 設立登記と同時にされた申出:5,464件
  • 設立以外の登記(役員変更や住所移転)と同時にされた申出:19,496件

直近の令和8年7月単月でも1,862件が実施されており(設立321件、設立以外1,541件)、制度として定着しつつあります。

利用件数が増加する一方で、実務上で実際に発生するメリットとデメリットを双方正しく理解して申し出ることが求められます。

2. 率直に比較!住所非表示の3大メリットと実務上の3大デメリット

代表取締役等住所非表示措置には、社長のプライバシーを守り不要な営業勧誘等を防ぐという強力なメリットがある反面、銀行融資や不動産取引等で必要書類が増えたり審査に時間を要したりする実務上のデメリットも存在します。

双方のバランスを冷静に見極め、自社の経営や将来の相続対策において本当に必要かを判断することが推奨されます。

住所非表示制度 メリット・デメリット総まとめ

3大メリット(得られる効果)3大デメリット(実務上の影響)
プライバシー保護とセキュリティの向上 自宅住所の公開を防ぎ、ストーカー等の被害防止や安全確保に繋がります。金融機関からの融資審査への不都合 登記簿上で完全な住所確認ができないため、審査に時間を要する場合があります。
不要な営業ダイレクトメール等の回避 登記情報を基にした不要な営業DMや訪問勧誘などを大幅に削減できます。不動産取引等での実務負担と必要書類の増加 取引の安全確保のため、別途個人の住民票や印鑑証明書等を求められることもあります。
起業・役員就任に対する心理的ハードルの低下 自宅公開への抵抗感がなくなり、スタートアップや家族の役員就任を促進します。住所変更登記義務(2週間以内)は免除されない 非表示でも引越し時の変更登記義務や、申請書への住所記載は必須です。

メリットの詳細

プライバシー保護とセキュリティの向上 

インターネットやSNSの普及により、代表者の個人住所が誰でも閲覧可能な登記簿に載り続けることへの不安が高まっていました。これを最小行政区画までに制限することで、自宅を特定されることによるストーカー被害や、不要な個人情報の拡散・セキュリティ上の懸念を効果的に防ぐことができます。

不要な営業ダイレクトメール等の回避 

登記情報を新設法人リスト等から機械的に抽出して送られてくる、多量のダイレクトメールや不要な訪問営業などを回避できます。これにより、無駄な対応を減らし、業務に集中できる環境を整えられます。

起業・役員就任に対する心理的ハードルの低下 

自宅住所がネット上等で公開されることを嫌って起業をためらう経営者や、事業承継・相続対策などで会社の共同代表や取締役に家族を就任させたい方にとって、住所非表示は精神的な障壁を大幅に取り除く効果があります。

デメリットの詳細

金融機関からの融資審査への不都合 

銀行等の金融機関から融資(不動産ローンや事業資金等)を受ける際、審査において「会社の登記簿上の住所」と「代表者個人の本人確認書類」の一貫性がチェックされます。登記簿に市区町村までしか書かれていない場合、番地までの一致を登記簿だけで確認できないため、追加の確認作業が発生し、融資の実行が遅れたり手続きが煩雑になったりする不都合が生じる懸念があります。

不動産取引における実務負担と必要書類の増加 

不動産の購入・売却・相続などの登記や契約の場面では、取引相手の宅地建物取引士や司法書士が「会社の代表者が確かに本人であるか」を厳格に確認します。登記簿上で住所の特定ができないため、代表者個人の住民票の写し、あるいは会社の印鑑証明書等の提出を通常よりも多く求められます。結果として、取引関係者には自宅の住所を明かすことになり、手間が増える「本末転倒」になりかねないケースもあります。

住所変更時の登記申請義務(2週間以内)は免除されない 

「非表示にしているのだから、引っ越しても登記の変更はいらない」というのは間違いです。非表示措置を講じていても、会社法に基づく住所変更登記(変更から2週間以内)の義務は免除されません。また、登記申請時には非表示にしたい代表者の正確なフル住所を申請書に記載しなければならないため、管理や手続きの手間自体が減るわけではありません。

こうしたメリットと実務上の不都合を踏まえ、当事務所では、手続き上の支障が懸念される場合は、無理に導入せず「一度様子見・保留」とすることも賢い選択肢であるとアドバイスしています。

3. 住所を非表示にするための「2つの必須要件」と必要書類

代表取締役等住所非表示措置を適用するためには、「特定の登記申請と同時に申し出ること」および「本店の実在性と実質的支配者を証明する書類の添付」という2つの厳格な条件をクリアしなければなりません。

特に、非上場会社が初めてこの措置を申し出る(初回)場合は、非常に多くの書類準備が必要となります。

非上場会社の初回申出に必要な3大書類

START 代表取締役等住所非表示措置の申出

【A】 本店の実在性を証する書面 郵便物受領証、または司法書士による実在確認書 など【B】 代表取締役等の住所を証する書面 住民票の写し、戸籍の附票、印鑑証明書 など【C】 実質的支配者を証する書面 実質的支配者リスト、公証人の認証書 など

[A][B][C] 3つの書面がすべて揃って初めて申出が可能

2回目以降の再申出(既に非表示措置が講じられている代表者が住所移転した場合等)は、[B]住所を証する書面のみで足ります。また、上場会社は金融商品取引所のホームページの写し等を1枚添付するだけでよく、[A]〜[C]の複雑な添付書面は不要です。

要件①:対象となる登記申請と「同時」に申し出ること

住所非表示措置は、単独で「非表示にしてほしい」という申し出を行うことは認められません。必ず、代表者の住所が登記記録に新たに記載される登記の申請と同時に行う必要があります。申出ができる主な登記は次のとおりです。

  • 株式会社の設立登記(新設合併・分割、特例有限会社からの商号変更等を含む)
  • 代表取締役等の就任・重任登記(代表権付与を含む)
  • 代表取締役等の住所移転による変更登記(最も効果を発揮する場面)
  • 管轄外への本店移転登記(新本店所在地での登記申請時)

※住所の更正登記や、マンション名を追加・修正するだけの変更登記、また代表取締役Aの住所変更登記の際に、住所の変わらない代表取締役Bについて非表示を申し出ることはできません。

要件②:所定の書面を添付すること(非上場会社・初回のケース)

非上場会社が初回に非表示措置を講じる場合、上図の[A][B][C]すべての書面を準備する必要があります。それぞれの要点は次のとおりです。

[A] 本店所在場所の実在性を確認できる書面:配達証明書+郵便物受領証(郵便局の通常伝票は住所記載がなく不可。ハンドスキャナーによる受領証など、部屋番号等まで本店住所と完全一致するものが必要)、または資格者代理人である司法書士が現地確認等を行い作成した証明書面(司法書士の職印が必要)。

[B] 代表取締役等の住所を証する書面:住民票の写し・戸籍の附票の写し・印鑑証明書など。併せて行う登記の申請書に添付されている場合は流用(援用)できます。

[C] 実質的支配者の本人特定事項を証する書面:実質的支配者情報一覧の写し(同年度・前年度に法務局へ保管申出済みなら省略可)、公証人の認証を受けた供述書面、または定款認証時に受領した申告受理・認証証明書 など。

4. 【状況別】引っ越しや役員変更時における住所非表示の継続・終了ルール

一度講じられた住所非表示措置は、住所が変わらない役員の重任・再任などでは自動的に引き継がれますが、代表者が引っ越しをした場合や、本店が実在しないと認められた場合などには職権で終了(解除)されます。

相続対策で法人の代表者を交代させる際や、資産管理会社の役員改選を行う際は、非表示を維持するための手続きルールを正確に理解しておくことが大切です。

役員変更・引っ越し時の非表示継続ルール

発生した状況非表示措置の扱い必要となる手続き
住所変更を伴わない役員の重任・再任自動的に継続改めての申出や書面の添付は不要。
引っ越しによる住所変更(登記申請時)再申出が必要住所変更登記と同時に改めて非表示を申出。2回目以降のため添付書類は「住所を証する書面」のみで可。
代表取締役の辞任後、同一人物が再就任継続可能1つの登記申請書で就任・辞任を同時申請し、住所に変動がなければ継続。

特に、引っ越しに伴う「住所変更登記」を申請する際に非表示の「再申出」を失念すると、新住所は通常どおりフル表示で登記されてしまいます。登記情報は一度公開されると、後から非表示にしても過去の履歴(閉鎖部分)として閲覧可能になるため、実務上の手続き忘れは厳禁です。

「終了(非表示解除)」となる4つのケース

  • 「非表示を希望しない」旨の申出があった場合:融資の円滑化等のため通常表示に戻したいときは、代表者本人の申出(単独申出可能)によりいつでも終了できます。
  • 本店所在場所に会社の実在性が認められない場合:法務局からの通知書が返送された場合や、資格者から実在しない旨の情報提供があった場合など。
  • 上場会社でなくなった(非上場化)と認められる場合:株式譲渡制限を設ける登記など。ただし非上場会社の必要書類を揃えて同時申出すれば継続可能。
  • 清算結了等で閉鎖された登記記録を復活させる場合:安全な取引の観点から非表示措置は解除されます。

5. 一問一答!代表取締役等住所非表示措置でよくある質問(FAQ)

Q. 合同会社の代表社員(社長)でも、この住所非表示措置は使えますか?

A. いいえ、使用できません。本措置は「株式会社」の代表取締役、代表執行役、代表清算人のみを対象とした制度です。合同会社・合資会社・合名会社といった持分会社の代表社員、あるいは特例有限会社の取締役などは対象外となります。

Q. DV等の被害に遭っている代表者を守るため、非表示にできる別の制度はありますか?

A. はい、より厳格な安全対策として「商業登記規則第31条の2」による措置が別途存在します。一般的な住所非表示措置は市区町村までの表示が残りますが、DVやストーカー等の被害者保護を目的とする特別措置では、住所の記載そのものに代えて特別な規定文を記録させることができます。適用には、事前の警察等への相談や被害の届出などの特別な要件が必要です。

6. まとめ:社長の住所非表示のポイント整理

  • 制度の対象は「株式会社」の代表役員のみであり、市区町村(東京都は特別区、指定都市は区)までの表示に制限されます。
  • 令和6年10月の開始から令和8年7月時点で累計24,960件が実施されており、安全管理に対する企業の高い関心がうかがえます。
  • 自宅情報のマスキングという大きな「メリット」が得られる反面、融資審査の手間増加や不動産取引等での提出書類の増加といった実務上の「デメリット」も率直に比較・考慮することが重要です。
  • 申出は必ず「登記申請と同時に行う」ことが条件であり、引っ越しに伴う住所変更登記などの際は、再申出を忘れないよう注意が必要です。
  • 初回手続き(非上場会社)には、本店の実在性確認書面・代表者の住所確認書面・実質的支配者(BO)を証する書面の3点を用意する必要があります。

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